コミュニティの究極のゴール

このところ、地域福祉計画の策定をお手伝いしています。

地域福祉計画とは、簡単に言えば、
「これからのまちで、どんな助け合いがあればよいのか」
を考える、未来のまちの設計図のようなものです。

子どもも、高齢者も、働く人も、障害のある人も、外国人も。
いろいろな人が暮らす地域で、誰が何を担い、どんな関係を育てていくのか。

それを、住民の声や地域の現実をもとに考えていきます。

でも、地域づくりというのは、きれいごとだけでは進みません。

誰かが動くと、誰かが安心する。
けれど同時に、誰かが寂しさを感じることもある。
何かを手に入れる地域は、何かを手放していることもある。

だからこそ、計画づくりの中で見えてくるものがあります。

子育て支援が進む地域で起きること

ある地域では、子育て支援に手ごたえがあり、若い家族がどんどん入ってきます。

子どもの医療費が無料になる。
保育や教育の施策が増える。
広報紙には、子どもたちの写真が並ぶ。
まちは明るく、にぎやかになっていく。

それは、とてもよいことです。

でも、その地域で長く暮らしてきた高齢者たちは、どう感じるでしょうか。

「なんだか、年寄りはお荷物扱いなのかな」
「まちの主役を取られたような気がする」
「行政はもう、高齢者には何もしてくれないのかな」

そんな気持ちになる人もいるかもしれません。

もちろん、高齢者には介護保険制度があります。
支援が必要になったときの仕組みは、ある程度整っています。

けれど、介護保険サービスを使っている人は、高齢者全体の一部です。
多くの高齢者は、まだ元気に暮らしています。

でも、元気だからこそ、制度の対象になりにくい。
困っているわけではない。
でも、なんとなく寂しい。
なんとなく、自分たちの出番がなくなっていくように感じる。

そういう気持ちは、数字には出にくいけれど、地域の空気として確かに存在します。

マンションが増えた地域で起きること

また、ある地域では、マンションが次々に建ちます。

新しい住民が増える。
便利になる。
暮らす人の数は増える。

けれど、プライバシーが何より大切にされ、町内会は弱くなり、地域の自治が薄れていく。

すると、真っ先に問題になるのが、ゴミです。

誰も拾わない。
誰も注意しない。
誰が出したのかもわからない。
カラスに荒らされ、夜中に散らかされ、少しずつまちが汚れていく。

最初は小さな乱れです。

でも、ゴミが増える。
落書きが増える。
貼り紙が増える。
「これはしないでください」
「あれは禁止です」
「ここに捨てないでください」

気づけば、壁じゅうが注意書きだらけになっている。

いわゆる割れ窓理論のように、小さな乱れが放置されることで、まち全体の安心感がじわじわ失われていきます。

住民同士のいざこざも増える。
あいさつもしない。
誰が住んでいるのかもわからない。
困ったときに声をかける相手もいない。

その先にあるのは、単なる不便さではありません。

地域の価値が下がる。
住み心地が悪くなる。
安心して暮らせる場所ではなくなっていく。

これは、福祉の問題であり、防犯の問題であり、まちの資産価値の問題でもあります。

いざというときの約束がある地域

一方で、ある地域では、いざというときの仕組みや約束があります。

災害時には誰が誰に声をかけるのか。
困ったときにはどこに集まるのか。
日頃から、どんなふうに顔を合わせておくのか。

そうしたことを、定期的に練習しています。

ただし、義務感だけでやっているわけではありません。
むしろ、ちょっとしたイベントのように楽しんでいます。

「防災訓練が楽しいの?」
と思うかもしれません。

でも、そこでご飯を食べたり、ゲームをしたり、勉強会をしたりする。
子どもも、働く世代も、高齢者も、外国人も、ほどよい距離感で顔を合わせる。

何度も会っているうちに、なんとなく気心が知れてくる。
顔を知っているから安心できる。
でも、近すぎないから気が楽でもある。

そこには、ゆるやかなつながりがあります。

マナーもある。
ルールもある。
けれど、監視ではない。
押しつけでもない。

人と人が、ほどよく混ざり合いながら、少しずつ価値観を広げていく。
違う世代、違う立場、違う文化を持つ人が、同じ地域で暮らしていることを実感していく。

これが、地域コミュニティの力なのだと思います。

町は、選ばれる時代になった

いま、町は「選ばれる時代」になっています。

どこに住むか。
どんな暮らしをしたいか。
どんな人たちと、どんな距離感で暮らしたいか。

人は、そうしたことを考えながら、住む場所を選ぶようになっています。

進学、就職、転勤、結婚、子育て、介護、定年後の暮らし。
人生の節目に、住む場所を変えることは、もはや特別なことではありません。

だからこそ、まちは選ばれます。

子育てしやすいまち。
年を重ねても安心して暮らせるまち。
趣味や学びを楽しめるまち。
困ったときに孤立しないまち。
自分らしく働き、暮らし、老いていけるまち。

人は、ただ家賃や土地の価格だけで住む場所を選んでいるわけではありません。

「このまちで、どんな人生が送れそうか」
「このまちで、自分の未来は少し明るくなりそうか」
「このまちに、自分の居場所はありそうか」

そういう感覚で、まちを見ています。

では、こう問いかけてみたらどうでしょう。

このまちで、人生120年を生きるとしたら。
安心でしょうか。
楽しみでしょうか。
ありたい未来は、手に入りそうでしょうか。

年を重ねても、行く場所がある。
話せる人がいる。
役に立てる場面がある。
困ったときに、声をかけられる人がいる。
自分の存在が、まちの中で消えていかない。

そんな暮らしが見えるまちは、やはり選ばれていくのだと思います。

選ばれるまちは、行政だけではつくれない

ただし、選ばれるまちは、行政だけではつくれません。

行政には、制度をつくる役割があります。
仕組みを整える役割があります。
公平に支える役割があります。

でも、日々の暮らしの中で、声をかけること。
ちょっとした異変に気づくこと。
誰かを誘うこと。
新しい人を受け入れること。
自分の得意なことを持ち寄ること。

これは、行政だけではできません。

地域は、誰かがつくってくれるものではない。
そこに暮らす人たちが、少しずつつくっていくものです。

もちろん、大きなことをしなくてもいいのです。

あいさつをする。
地域の行事に一度だけ顔を出してみる。
気になる活動に参加してみる。
自分の経験を誰かの役に立ててみる。
小さな集まりを開いてみる。

その小さな一歩が、地域の空気を変えていきます。

そして何より、自分自身の居場所をつくっていきます。

さあ、どの地域に住みたいですか?

子育て支援が進み、若い世代が増える地域。
便利だけれど、人のつながりが薄れていく地域。
日頃から顔を合わせ、いざというときに助け合える地域。

さあ、どの地域に住みたいでしょうか。

もちろん、現実の地域はこんなに単純ではありません。
どの地域にも、良い面と課題があります。

若い世代が増えることは希望です。
マンションが増えることも、地域の変化として必要なことかもしれません。
高齢者が多い地域にも、豊かな経験や知恵があります。

大切なのは、どれか一つを正解にすることではありません。

その地域で暮らす人たちが、何を大切にしたいのか。
誰を置き去りにしていないか。
何を守り、何を変えていくのか。

そこを考えることです。

居場所のある暮らし

これからの地域づくりのキーワードは、
「居場所のある暮らし」
だと思っています。

少しわかりにくいでしょうか。

言い換えるなら、
「ひとりぼっちにしない、させない暮らし」
です。

なぜ、それが必要なのか。

それは、一度でもひとりぼっちのつらさを味わったことのある人なら、少しはわかるのではないでしょうか。

誰かに話を聞いてほしい。
認めてほしい。
ほめてもらいたい。
助けてもらいたい。
ときには叱ってもらいたい。
慰めてもらいたい。

好きな人や、大切な人がいるだけで、もう少し頑張れる。
自分のことを気にかけてくれる人がいるだけで、今日を乗り越えられる。

そういうことが、人にはあります。

制度だけでは届かないもの。
お金だけでは埋まらないもの。
便利さだけでは満たされないもの。

それを、地域の中にどう育てていくのか。

私は、そこに地域福祉計画の大きな意味があると思っています。

コミュニティの究極のゴール

コミュニティの究極のゴールは、
誰かを管理することではありません。
誰かに我慢を強いることでもありません。
昔ながらの濃い人間関係を取り戻すことでもありません。

そうではなくて、
「ここにいていい」
と思える人を増やすこと。

困ったときに、ひとりで抱え込まなくていい地域をつくること。
元気な人にも、弱っている人にも、役割や出番があること。
違う世代や立場の人が、ほどよい距離でつながれること。

そして、もうひとつ。

自分の居場所を、誰かにつくってもらうのを待たないこと。

行政が何かしてくれるのを待つ。
誰かが誘ってくれるのを待つ。
地域が変わってくれるのを待つ。

それだけでは、たぶん間に合いません。

これからの人生が長くなるなら、なおさらです。

自分は、このまちでどう暮らしたいのか。
誰と、どんな距離でつながりたいのか。
何ならできるのか。
どこに顔を出してみるのか。
どんな居場所を、自分からつくっていくのか。

コミュニティの究極のゴールは、
「自分の居場所をどうつくれるか」
にあるのかもしれません。

自分次第。

そんな暮らしを実現したい。

こんな時代だからこそ、なおさらです。

地域福祉計画は、会議室の中だけでつくるものではありません。
アンケートの数字だけで完成するものでもありません。

その地域に暮らす人たちの寂しさや願い、違和感や小さな希望を拾いながら、少しずつ形にしていくものです。

こうやって、私の地域福祉計画は進んでいきます。